文句を言いながらも清はチュッと琶子の額にキスをし、手を引くと、窓横に置かれた本棚の所まで行く。そして、本棚の三段目中央の引き出しを開け、中から白い小箱を取り出す。

「あの指輪は公開用だ。本物だけど本物の本物はこれ」

箱から取り出したのは深紅のジュエリーケース。
だが、相当年季が入っているようで、少しくすんでいる。

清が蓋を明ける。そこには、少し黄ばんだ白い台座に真珠の指輪が入っていた。
大きな真珠の両サイドにダイヤの付いた、ゴージャスだがシンプルに見える指輪だ。

「これは、母が父から貰った指輪だ」

風子さんの……琶子はソッとその指輪に触れる。

「母の部屋を片付けて見つけた。箱の中に手紙が入っていて、俺の妻になる女性に譲ると……貰ってくれるか」

琶子は何度も指輪と清の顔を見やる。その瞳からポロポロと涙が零れ出す。

「……ありがとう……ございます」

清が親指の腹でソッと涙を拭う。

「琶子、結婚しよう」

ウンウンと琶子は何度も頷く。

「ちゃんと言葉で聞かせて」
「……はい……はい……清さん、結婚して下さい!」

おいおい、何で、逆プロポーズされるんだ、と清は笑いを堪えながら、琶子の左手薬指に指輪を嵌める。

グスンと鼻を鳴らし、琶子が訊ねる。

「……あの時、どうしてこれを渡してくれなかったんですか? わざわざ無駄使いしなくてよかったのに」

清は溜息を一つ零し、薬指を親指で撫でる。

「バカか、あんな茶番に大切な指輪を使えるか」
「茶番? ああ、あの写真?」

清は頷き、指輪の上に口づけを一つ落とす。

「この指輪は母と父の形見だ。だから、秘宝にしておきたかった。お前と俺だけの」

琶子の胸がキュンと締め付けられる。

「はい……そして、私たちの子供の」

琶子は無意識に言ったのだろう。
だが、清は琶子の口から出たその言葉に、琶子の思いを知り、二人の確かな未来を見たような気がした。

「ああ、近未来、会えるであろうジュニアの」
「清さん……とっても素敵なプロポーズ、ありがとうございます」

琶子は背伸びをすると、清の唇に口づけをする。