「アナウンサーのフォローを受けるとは、清も、まだまだ青いのう」
特別控室でモニターを見ていた市之助は、ヤレヤレ、と頭を振り、手の中の写真と懐中時計に目を落とす。
「松ちゃん、賭けは私の勝ちのようだな」
今は亡き、琶子の祖父、松衛門と交わした賭けを思い返す。
当時、市之助の息子大樹も松衛門の娘敏子も独身だった。
父親たちは二人の結婚を望んだ。
理由は単純で、単に本物の親戚になりたかっただけ、という我儘なものだ。
しかし、幼馴染で兄妹同然に育った二人は、それは絶対有り得ない! と猛反対し、共同戦線を張り、母たちを味方に引き入れ、結局、父親に勝利した。
意固地になった市之助と松衛門は、ならば孫を結婚させようと目論んだ。
だが、松衛門がそれを反故にした。ちょうど清がアメリカに発つ日だ。
理由を聞いても、言えない、の一点張りだったのに、あの日……松衛門が己の灯が僅かだと悟った日、反故の代わりに賭けを申し込んできた。
『お前の孫と俺の孫が恋をしたら、お前の勝ちだ。まぁ、絶対に有り得んがな』
そう言って、松衛門は賭けの代償だ、と懐中時計を市之助に預けた。
今思うと、その言葉は彼の裏腹で、懐中時計は形見分けだったのでは、と市之助は思う。
だが、二人の賭けを嘲笑うように、突然、息子夫婦が亡くなり、松衛門の家族はバラバラになった。
市之助は狂う程に辛かった。
だから、余計に孫たちの結婚を望み、琶子を引き取りたかった。そして、家族を取り戻したかった。だが、それに固執するあまり、とうとう琶子と会えなくなってしまった。
市之助は知っていた。
風子が、琶子の自由を奪われないように画策していたことを。
だから、風子が亡くなった時、彼女の遺志を尊重し、無理強いを止めた。
「長かった。私たちの願いが通じたのか、運命だったのか分からないが……」
市之助はコチコチと進む秒針を見つめながら呟く。
「結局、収まるところに収まった。私はもうしばらくこの世に留まり、曾孫を見せてもらうことにする。だから、松衛門、まだ呼びに来るんじゃないぞ」
カラカラと笑い、モニターに目を移すと、清と琶子が照れたような笑みを浮かべ、見つめ合っていた。
「これなら、そう長く待たずとも、曾孫登場もすぐだな」
市之助は小さな手を取り、散歩する自分の姿を思い浮かべ、穏やかな笑みを浮かべる。


