「どうして怒る。正当な意見を述べただけだろう」

怒ってはいない。だが……。
あの後、皆が帰った後、琶子は急に黙りこくってしまった。
やっと二人切りになれたのに、清は相手にしてもらえずイライラしていた。

「俺は明日から一週間、国外だぞ。側に居られないんだぞ、分かっているのか」

そう言えばそうだった、と琶子は思い出す。
それでも素直になれず、本を読むふりをし考える。

世間から見たら、クローバーの一葉になるということは凄いことだ。
清が言ったように、億万長者になる可能性も百パーセントだろう。
だが、彼等と釣り合わぬアンバランスな者がそれを担ったら……。
もしかしたら、クローバーの地位をも脅かすことになるかもしれない。

琶子は思い出す。
自分は疫病神だったことを。
自分が負の連鎖の始まりだったことを。
彼に災いが降り掛かったら……。

「清さん、本当に私が横に居てもいいのでしょうか?」

不安気な琶子の様子に清は溜息を付く。
琶子の隣に腰を降ろし、その肩を抱く。

「何度も言わすな。俺の隣に居るのはお前しかいない」
「だって、私は何も無い普通の女ですよ」

清がパチンとデコピンする。
琶子は「痛っ」とオデコを押え、清を睨む。

「突然何するんですか!」

「馬鹿げたことを言うからだ。お前は自己評価が低過ぎる。俺は世間の評価などどうでもいいが、お前が思っているほど、世間はお前を普通の女とは思っていない。まっ、それもイベントで分かるだろう」

清の唇が琶子の額に降り、そして、唇に降りる。

「俺にとってのミューズはお前だ。この俺が認めた女だ。ただの女である筈ないだろ」

甘い清の声が琶子の耳元で囁く。
魔法の呪文のようね、と琶子は清を見つめる。

「そうですね。ここで自分を否定したら、清さんを否定するのも同じですね」

靄のかかっていた心が、スッキリ晴れ渡っていく。

「ありがとうございます。元気になりました」

琶子がチュッと清の頬にお礼のキスをし、花のような笑みを浮かべる。

コイツは……と苦笑し、清は盛大な溜息を漏らすと、また、理性を総動員させる。