拗ねた則武をなだめながら桔梗が尋ねる。
「で、指輪まで公開しておいて、婚約発表しないの?」
「イベント前日の予定だ」
則武たちは知っていたようだが、琶子は寝耳に水だった。
「清さん、前日って……」
「ああ、俺一人で会見する。安心しろ」
「で、僕もこの機に乗じて、薫とのコラボ企画である、癒しのお菓子シリーズ『ヒール・ミー』を前々日、発表するんだ」
裕樹の言葉を継いで、則武がニヤリと笑う。
「その総結集をイベントで披露するって算段だ。俺と桔梗の結婚披露は当日の第一部でする」
「世界中が大騒ぎになるよ」
裕樹の瞳がワクワクと輝く。
「聞いているだけで鳥肌が立つほどゲンナリするわ」
「これでイベントは大成功間違いなしだ」
則武は桔梗を宥めるようにポンポンとその頭を叩く。
琶子は呆気に取られる。
この御曹司たちの力は計り知れない。
傍観者的には、お遊びの延長にしか見えない行動が、仕事となり、膨大な人を動かし、世の金を動かしている。
全く理解し難い現実を目の当たりにしながらも、嫌悪は抱かない。
それは彼らが私利私欲で動いていないからだろう。結果的には世を潤しているからだ。
「クローバーって、凄いですね」
心からの賞賛が琶子の口から漏れ出る。
その場の視線が琶子に向く。
「幸せの四つ葉。その葉の一葉に、男女問わず様々な人が、我が身を置きたがる。その意味が、今、分かった気がします」
桔梗が頷く。
「そうね、結婚相手だったり、ビジネスパートナーだったり、思惑は違うけど、誰もがクローバーとの関係を築き、共に歩みたいと願っているわね」
「クローバーとなら、どんな困難なことにも立ち向かえ、成功に導ける、と思えるからでしょうね」
だって、この三人だもの、と琶子は、その破天荒ぶりを思い返す。
「無茶苦茶な人たちだけど……。そうね、私も幸せになれたわ」
桔梗が則武を見る。則武は優しく桔梗の肩を抱く。
「そんな風に言ってもらえて光栄だな」
裕樹が照れ臭そうに鼻の下を擦る。ところが……。
「まぁ、俺と組んだら、間違いなく億万長者になるからな」
身も蓋もないとはこのことだろう。清の言葉が、いい雰囲気に水を差す。
「清……お前って……」
その場の全員が、深々と溜息を付き、冷たい眼を向ける。