「申し訳ないが……」

握手を交わす二人に、低く粛然とした声が語り掛ける。
声に弾かれ、登麻里は則武から視線を移す。

やはり……さっきから気付いていた。だが、気付かぬフリをしていた。榊原清! 完璧なパーツがバランス良く並ぶシンメトリーな顔。何て冷たく美しいのだろう! 半端ない強烈なオーラ。圧倒的な威厳と風格。

威圧され、息苦しさを覚えた登麻里は、すぐ目を逸らす。

「池田さん、金成氏に伝言をお願いします。則武の話が終わったら伺うと。それまで庭を散策しています。裕樹、則武に付き添ってやれ」

則武と裕樹は慌てて言葉を挟もうとするが、清は有無も言わさぬ摂氏零度の視線でそれを制し、登麻里に軽く頭を下げると、独り庭に向かって歩き出す。

「則武……僕、今日、二度目の目殺に耐えたよ」

則武も「ああ」と顔を強張らせ頷く。

「多分、もう一回睨まれたら死ぬと思う。その時は屍を拾って祖母に届けて」

お祖母ちゃんっ子の裕樹は、力なく笑い、ふらつく足で屋敷に入る。

その後ろ姿を眺めながら則武は、イヤ、屍も残らず灰になり消え失せる。奴の死線はそれぐらい威力がある! 冗談抜きで、その時を迎えたら、安らかな眠りを祈ってやる、と心の中で十字を切る。