一月は『行く』、二月は『逃げる』、三月は『去る』という。
ついこの間、お節料理を美味しく食べていたのに、早、一月も半ば。

本当、月日が経つのは早いわね、と登麻里は徹夜明けにもかかわらず、明るく元気だ。

何故なら、年初め、則武経由で世界的有名な出版社『エロティズム』から執筆依頼を受けたからだ。

ここから出版される著書は、どんなジャンルも百パーセント間違いなくベストセラーとなり、世界数十か国の言語に翻訳され、発刊される。たとえそれが、官能小説という分野であってもだ。

大人な男が! 大人な女が! 純文学並みに認める『偉大で崇高なエロ小説』と認知されるのだ。眠い目を擦りながらも、パソコンのキーを打つ登麻里の手が止まらないのも無理ない。

そして、他の住人達も……。

まず、桔梗と桃花は、正月明けの一月七日、無事、高徳寺邸に引っ越した。

次に、薫はレストランMと正式に提携を結び、今春から新たに展開されるスイーツ部門の管理者を任され、毎日、嬉々と飛び回っている。

そして、琶子はあれ以来、週一で小鳩園を訪れ、母親と静かで穏やかな時間を過ごしている。
相変わらず忙しい清とは、共に過ごす時間は少ないが、図書室デートに加え、ドライブデートやディナーデートなど外出も増え、リハビリは順調に進んでいた。

そう、眠りの森の住人は例年にない、変化に飛んだ平和な年明けを送っていた。
だが、そんな平穏な時は、とあるサイトによって、呆気なく消し飛んでしまう。

「ウッソー! 何、これ~!」

悲鳴に近い大声が、キンと冷えた朝の空気を激振させ、眠りの森中に轟く。
登麻里はゴシゴシ目を擦り、もう一度画面を見る。

その声を聞き付け、パジャマ姿の薫と琶子が、「何事!」とキッチンに飛び込んで来た。

「たっ大変! これ! これを見て!」

アワアワとパソコンを指差す登麻里の後ろから薫と琶子が覗き込む。
そして、一瞬にして固まる二人。

そこには『予告! ついに暴かれる! 榊原清の恋人、謎の美女の正体は!』の文字。

そして、記事と共に、誰が撮ったのか分からないが、一本の傘の下、清と肩寄せ合い歩く琶子の後姿がデカデカと載っていた。

「なっ何ですか、これ!」

琶子は驚きの眼で声を上げる。

「アー! 毎度毎度、心臓に悪いわ!」

登麻里は冷たくなったコーヒーを一気に飲み干す。

薫は登麻里の言葉に指を折る。
一度目は仮面舞踏会の時、二度目はクリスマスパーティーの時、そして、今回で三度目のスクープ記事だ。

「何々、『続きは本日一月十七日発売の月刊誌ソーラームーンで!』だって」
「ん? その雑誌って、KTG出版……ってことは高徳寺さんの仕業?」

薫が記事を読み上げると、登麻里が思い出したように言う。
二人の顔がみるみる鬼の形相に変わる。

「すぐ、桔梗に連絡しなきゃ!」

則武のことなら桔梗に聞くのが一番だ! と薫はすぐさま電話を入れる。