則武は最上級の微笑みを浮かべ、ドアを背に立つ登麻里の目前に立つ。

「改めまして、池田登麻里先生、お初にお目に掛かります。お会いできて光栄です」

そして、右手を差し出し握手を求める。

「貴女の著書は全て拝読しております。崇高、且つ、色香漂うエロスの世界、読むたび、最高至極の美しい愛を感じております」

則武はいつもの様に、これで仕留めた、とばかりに熱い眼差しを登麻里に向け、もう一歩近付き、極上の甘い言葉を少し大げさに囁く。

「まさか、こんなに温和な奥様風な方が著者だとは思いもしていませんでした。アダルト系の作家に見えないギャップ、魅力的です。ますますファンになりました」

しかし、則武の魅惑的な言葉も態度も、登麻里にかかれば道化にしか見えない。
ツラツラと淀みなく並べ立てる褒め言葉も、口先だけね、と鼻で笑うが、大人の対応を忘れないのが登麻里の流儀だ。

「恐縮です。これからもどうぞご贔屓に」

ニッコリ微笑み手を差し出す。