潤んだ瞳から一筋涙が零れ落ちる。
「市之助さんは、母と私のため、時間を置いて下さったのです」
『……琶子と母親。巡り合いの日が来たようだな。きっと二人にとって良日となるだろう。清、彼女はお前の大切な人なのだろう、見守ってやれ。永遠に』
琶子は思う。きっと時期がズレていたら、母親と会おうと思わなかった。
清と出会い、心の奥底にある恐怖を少しずつ解消できたからこそ、今、この場に居ることができたのだ。
「会わせていただけますね」
琶子が再度尋ねる。
「エエ、ご案内いたします」
時枝事務局長がニッコリ微笑む。
金成は納得いかない、というように文句を言う。
「何だ、清が一緒だと大丈夫なのか?」
「はい。お手紙をお渡しした上で、でございますが」
事務局長はもう一度ニッコリ笑い、それから少し複雑な顔をした。
「そのお手紙を預かったのは、三か月ほど前になります」
三か月前……図書室で祖父と琶子が初めて会った頃だ。清はあの日のことを思い出す。
「実はそのお手紙をお渡しするのに期限がございまして、もし、今月七日までに清様がこちらにいらっしゃらなかったら、手紙は破棄し、今後一切、如何なる者が近江敏子様を訪ねて来ようと面会させないように、と申し遣っておりました」
金成も清も、そして、琶子も、これには驚いた。
「ただ、市之助様は、孫ならきっと期限までに娘を連れて来るだろう、と楽しそうにおっしゃっていました。なので、私どもは、ずっとお待ち申しておりました。清様のご到着を」
琶子は、ほらね、と清を見る。
「市之助さんは、清さんのため、金ちゃんのため、私のため、いろいろ考えて母を隠したんです。きっとそうです」
「お前がそう言うと、そうかもしれない、と思ってしまうから不思議だ」
金成が苦笑いを浮かべる。


