「店員が? お母さんと?」

清の運転する車は書店を出ると、則武のいるKTG出版本社ビルに向かった。
二月の式典イベントが迫っているため、泣く泣く桔梗と桃花と離れ、正月返上で仕事をしていた則武は、二人が到着すると早速話を聞き、その話の内容に驚く。

「ああ。お前、本店の黒縁眼鏡、知っているか?」
「黒縁眼鏡ならたくさんいるぞ。それに店員全員を把握できる筈ないだろう」

則武の言い分も当然だ。清は考える。そして、アッと思い出す。

「そう言えば、新人賞を取ったとか言っていたな」

清のヒントを聞き、嗚呼、と則武はたちまち相互を崩す。

「アイツか。奴なら、今年、いや去年か、WEBミステリー大賞の新人賞を取った。新人にしては結構面白かったな。賞を取った後もあそこでバイトを続けている。まだ作家一本で食っていけないようだが、まぁ、それももう少しで終わるだろう。なんせ、俺が目を付けたからな」

則武はニヤリと悪徳商人越後屋になる。

「で、何で奴が琶子先生のお母さんを連れ去るのだ?」
「それは俺達が知りたい。だから来たんだ。奴の住所は?」

則武は黙って琶子を見る。

「うーん、個人情報漏洩……だが、仕方ない」

則武はパソコンに向かい、素早く操作し、最後にポンとエンターキーを押す。
しばらくすると、プリンターが静かな音を立て始める。

「これが奴の経歴だ」

印字されたばかりのA四版用紙を琶子に手渡す。それを横から清が奪う。

「フーン、高柳聖人。ん? タカヤナギキヨヒト……おい、あの高柳か!」
「思い出したようだな。そう、あの高柳だ」