「何をニヤついているんだ?」

かかってきた電話に出ていた清は、戻ってくるなり、琶子の髪をクシャッと撫でる。

「清さん、清さん! 聞いて下さい。読者さんから直接感想を頂きました。とても嬉しいです」

飛び跳ねて喜ぶ琶子に、「お前、正体ばらしたのか?」と尋ね、琶子から事情を聞くと、よかったな、とまた頭を撫でる。

「でも、お前、ファンレターとか貰ったことないのか?」

「あっ、たぶん頂いていたと思います。でも、世間とかかわらず生きていたので、全て金ちゃんにお任せしていました」

なるほど、と清は頷く。

「じゃあ、イベント後は、届いたファンレター、ちゃんと読んでやれよ」
「ハイ! 読ませて頂きます」

閉店時間間際まで、琶子はその場を立ち去らず、近江琶子の本を手にする人々を、嬉しそうに眺めていた。

そして、そろそろ立ち去ろうか、と思っていた時、その人はやって来た。

「……お母……さん?」