一瞬、二人は息を止める。
また、コンコンとノックの音がし、琶子はハッと我に返る。

「ちょちょっと、榊原さん、ダメです……ちょっとどいて下さい。誰か……いらしたみたいです」

「放っておけ」

鍵……掛けていない。もし、今、ドアを開けられたら……。
琶子はグイッと清を思い切り押し退け、ベッドから飛び降りると、身を整え、ソッとドアを開ける。

「あれぇ、もしかしたら、邪魔しちゃった?」

そこに立っていたのは裕樹だった。

真っ赤な顔の琶子と、ムスッとした清を見るなり、何をしていたのか想像し、ワチャ、やっちゃった? と面目なさそうに肩を竦める。

「四の五の言わず、とっとと出て行け! このお邪魔虫!」

清は裕樹に向かって枕を投げ付ける。それをワッと言いながらキャッチし、裕樹はアハハと笑い、琶子に渡す。

「僕も馬に蹴られたくないけど、薫が早く来いって。新年の挨拶をして、皆で食卓を囲むのが、眠りの森の元日のルールだって」

「あっ、そうです! そうでした!」

琶子は本来の目的を思い出し、裕樹に加勢する。
清はチッと舌打ちをし、盛大な溜息を付く。

「分かったから、とっとと出て行け」
「じゃあ、琶子ちゃん、先に行こうか」

裕樹が琶子の背中に手を添えた途端、ベッドから飛び出した清にど突かれる。

「お前ひとりで行け!」
「もう、暴力反対! 分かったよ。琶子ちゃん、早くおいで」

裕樹は頭を撫でながら部屋を後にする。

「まったく、いつもいつも!」
「榊原さん、私も行きますね。早く着替えて来て下さい」

琶子が一歩踏み出した途端、清が背後からその躰を抱く。

「駄目だ」

琶子を振り向かせると、再び、その唇にキスをする。