一足早く掃除を終え、先にお節の準備に取り掛かった薫以外の住人は、三十日の午前、各自の部屋の掃除を終え、ようやく大掃除は終了となった。

「薫ちゃん、今年はどんなの作るの?」

当然、お節料理作りは薫指揮のもと進められる。それ故、伝統御節は勿論、桃花の喜びそうな現代御節まで、毎年元旦、食卓を彩る多種多様の料理は、実に芸術的で美味だった。

「桃花、これをご覧」

ンフフ、と語尾に音符マークを貼り付け、妙に明るいテンションで、薫は丸テーブルに巻物をサッと広げた。

テンションの高さは寝不足故らしい。さもあらん。眠りの森のお節に加え、絶対に断れないお年賀スイーツの依頼が十件ほど入っていて、薫はこの数日、昼夜問わずプロキッチンとファミリーキッチンを行き来し作業していたのだ。

「ちょっと、これ、何? 分かり難い」
「ウン、ミミズみたいな字」

達筆な文字で書かれたお品書きに、登麻里と桃花が眉をひそめる。

「ンフ、そうよねぇ。ちょっと筆で書いてみたかったの」
「本当、貴方って、見てくれ異国の人だけど、中身、ザ・日本! ね」

登麻里はお品書きを解読しながら、次回作はそんな主人公と和美人のねっとり嫉妬渦巻く悲恋でも書こうかしら、と構想を練る。

「当たり前でしょう、クォーターだけど国籍はジャパンなんだから。日本チャチャチャよ!」

ランナーズハイ状態の薫はタブレットを取り出し「やっぱりこっちの方が分かり易いよね」と写真付きレシピを見せる。

「ウワァ、これ美味しそう!」

桃花が指差ししたのは、栗きんとんのチーズケーキ。

「あっ、これはおやつに作っておこうと思って。古典的なのも当然作るわよ」
「桃花、栗きんとん大好き! いっぱい作ってね」
「って、貴女もお手伝いするのよ! 頑張ってね」

桃花は嬉しそうに「ハーイ」と返事をし、次のページの伊達巻に目を輝かせる。