「だからですね。『実るほど頭を垂れる稲穂かな』です。人格者ほど謙虚な態度を取るものだと思っていましたが……貴方の態度は真逆です」

呆れるように琶子を見、清はフンと鼻を鳴らす。

「謙虚な姿勢が似合うキャラは気取っていない。これが俺のスタイルだ。崩すつもりはない。それより、質問に答えろ。どこへ行きたいのだ、リハビリを兼ね、どこでも連れて行ってやる」

琶子は口をポカリと開け、穴が開くほど清を見つめ、徐に訊ねる。

「あの、それは、もしかしたら、私の意志を尊重するお言葉でしょうか?」

清も、自分の発した言葉の意味を理解していなかった。琶子に言われ天を仰ぎ、ん? と考え、それから、ハッとし、真っ赤になり、ソッポを向く。

「アーッ、やっぱり、そうなのですね! 初めてですね、榊原さんが、私の意見を聞き、行動するって」

清は、イヤ! もしかしたら生まれて初めてかもしれない、と心の中で訂正し、その事実に驚愕する。

「それほど、お前に惚れているということだ」

素直に認め、言葉にする。
ああ、そうだ。心を軽くするのは、こんなにも簡単なことだった。

清は鬱々とした昔を思い出し、ナナに嫌われるのが怖く、逃げ回っていた己を嘲笑する。

結局、相手のためと言いつつ、自分の体面や保身ばかりだった。

玉砕覚悟でナナに告白していたら、あんな暴言も吐かず、これほど長く苦しむこともなかっただろう。

それを気付かせてくれたのはコイツだ。清は赤面する琶子の頬を撫でる。