「ああ、無自覚だけに罪深い」

腕の中で「酔ってませんよ」と言いながら、弱々しくグーパンチする琶子の髪を清は優しく掻き上げる。

「まっ、しっかり介抱してあげて。後は任せたわ。私は明日、英国大使館で仕事なの」

薫は「ジングルベ~ル、フンフンフン~」と鼻歌を歌いながらキッチンを出て行きかけ、「あっ」と思い出したように立ち止まり、肩越しに振り向く。

「二人切りだからと言って、オイタは駄目よ。でもぉ、クリスマスだからキスまでは許してあ・げ・る」

悪戯っぽく笑い、綺麗なウインクを残し、今度こそ本当に出て行った。

清は、何故、俺がお前に許しを請う必要がある? と釈然としないながらも、「取り敢えず水か」と琶子の唇に何度かグラスを当てるが、琶子は、ウ~ン、と言うだけで一向に飲む気配がない。

無理そうだな……キスまではいいんだな、と清はグラスの水を口に含み、口伝いに水を飲ませる。

コクンコクンと琶子の喉が鳴り、飲み終えると、美味しかったのか猫が笑むように、柔らかな微笑みを浮かべる。

しっとりと濡れた唇にライトが当たり、艶やかに煌く。
それを見つめながら、何となく『キスまで』と釘を刺されてよかった、と清は思う。

「全く、罪深い……」

引き寄せられるように、清は再びその唇に口づける。

「本当に罪深い奴だ」

腕の中の眠り姫を、清の瞳が優しく見つめる。
暖炉の薪がパチンと爆ぜ、コチコチと時を刻む柱時計が、十一時を知らせる。

こんな静かで穏やかなクリスマスイブは、何年振りだろう。
夢を見ているのか、時折、琶子がフワリとあどけなく笑う。

男の本能だろうか、この笑みを守りたい、と清の心が強く思う。
その思いに共鳴するように父の言葉が蘇る。

『守るべきものができたら、男はもっと強く優しくなれる』

ああ、そうだな。強く優しくお前を守っていく。
清は、約束だ、というように琶子の手を取ると、その掌に唇を押し当てる。