眠りの森のシンデレラ


「これ、読んだぞ」

たった今、話題に上っていた『今ある』をアタッシュケースから取り出し、清がぶっきら棒に言う。

「エッ! ウソッ! 清、恋愛小説、読んだの?」

裕樹が思いっ切り驚嘆する。
失礼な奴だ、と清は裕樹を一瞥し、それはともかく、と琶子を見る。

「これはお前の回顧録か?」

どうやら清は、琶子自らの経験を記したものだと思ったらしい。

「お前、恋人とか、いたのか?」

裕樹は、ああなるほど、と清の嫉妬に気付く。
それにしても……清は自分の様子に気付いていないが、不貞腐れたその様は、前代未聞だ。

「あの……その著書はナナちゃんの……」
「……ナナ?」

思いがけない名前に、一瞬、清は混乱する。そして、ブランコのシーンを思い出しハッとする。

「ナナって、もしかしたら、妹のナナのことか!」

清は言葉と同時に身を起こし、琶子を見つめる。

「はい、榊原ナナさんです」
「じゃあ、この話は……ナナの?」
「はい。彼女の遺志をしたためました」

琶子は清の手にある『今ある』を見つめ、安堵の息を吐くように言葉を発した。

「ナナちゃんの物語を……やっと読んでもらえたのですね……」