眠りの森のシンデレラ


裕樹が乾いた笑みを浮かべる。

「うん、そう、僕がナナのお相手。やっぱりあれはナナの物語だったんだね。僕には何となく分かっていた。『今ある』に登場する恋人が僕だって」

嗚呼、と琶子はあまりの驚きに目を見開く。
感慨深い思いがジワジワ湧き上がってくると、その大きな瞳に涙が溢れ出す。

「琶子ちゃん、ありがとう。僕はこの本のお陰で生きてこられた。ナナを失っても……」

裕樹の言葉に、涙腺の壊れた琶子は本格的に泣き出した。

「ちょっ、ちょっと」

普段、余裕で女性に接する裕樹も、子供のようにしゃくり上げ大泣きする琶子に、どうしていいやら、と焦るが、結局、その肩を抱き、髪を撫でることしかできなかった。

「泣かないで。ズット君に会いたかった。お礼を言いたかったんだ」

うんうんと琶子は何度も頷き、「会えてよかった」と涙の合間に声を出す。

「……ナナが、伝えてと、愛していると」

「うん、僕も彼女のこと、ズット愛している。今もこれからも……でも、幸せになるよ。本にあったメッセージ通り。これでようやく前へ進める」

琶子の肩を裕樹は優しくポンポンと叩く。

よかった……伝えられた。
琶子も裕樹も重荷が一つ無くなり、スーッと心が軽くなるのを感じ、晴れやかな気分になる。

そこへ突然、怒りの声が轟く。

「おい! 何をしている!」

琶子は、ん? と涙で濡れた重い瞼を持ち上げる。
裕樹は「ワッ! 清」と慌てた声を上げ、ヤバイ、と琶子からパッと手を離し、肩の辺りでホールドアップのポーズを取る。