眠りの森のシンデレラ


則武と桔梗に続き、登麻里と薫もキッチンを出て行くと、一人残った琶子は、パソコンに向かい、腕を組み、ウンウン唸っていた。

「わ~こちゃん」
「エッ! 水佐和さん? いらっしゃいませ。どうしたんですか?」

続々と現れる御曹司に、暇なの? と琶子は失礼なことを思う。
裕樹は琶子の隣に腰を下ろし、逆に訊ねる。

「で、琶子ちゃんは何しているの?」
「私ですか? 次回作のプロットに頭を悩ませています」

琶子は眉を八の字にしパソコンを指す。
裕樹は真っ白な画面を覗き込みながら、興味深げに問う。

「ねぇ、琶子ちゃんはどうやって物語を考えるの? 例えば『今ある』とか」
「んー、いろいろですね。……ただ……『今ある』だけは、特別です」

琶子は遠い目で窓の外を見る。
鉛色の空。天気予報で明日のイヴは、珍しく雪と言っていた。

「降りますかねぇ……だったら、ホワイトクリスマスになりますね」

裕樹もつられて視線を空にやる。
ホワイトクリスマス……忘れられないあの日。彼女との初めての夜。裕樹の心に甘酸っぱい思い出が蘇る。

「外、雪の匂いがしたから、降るんじゃないかな」

琶子はエッ! と裕樹の方を見る。

『雪の匂いがするから、明日は雪ね』
ナナが言うと、次の日、本当に雪になった。

あのクリスマスの前日も、ナナはそう言った。
そして、クリスマスの次の日、ナナからハッピーな報告を受けた。

「その言葉……もしかしたら、貴方が……」