「薫、もうちょっと優しく言えない。でも桔梗、薫の言葉は正しいと思うわ。貴女の彼への思いやりは自分を保守するためにしか見えないわ」

二人の言葉に、桔梗のクールフェイスが翳る。
だが、何物にも屈しない、というような毅然な声が言う。

「何を言われようが、覆水盆に返らず。彼と元の鞘に収まるつもりはないわ」

そこに、琶子ののんびりとした声が入る。

「でも、桔梗さんの心次第で……合浦珠還(ごうほしゅかん)、一度失った大事な物が再び手に戻る……かもしれません……たぶん、じゃなく、きっと」

薫と登麻里は顔を見合わせると、呆れたように、感心したように、この娘、時々鋭いことを言うのよね、と微笑み合う。そこに、突然現れたメンズボイス。

「ああ、そうだ。だから、お前と話がしたい」

四人は驚き、ドアの方を見る。

「あらっ、高徳寺さん!」
「まぁ! いらっしゃい」

薫と登麻里は目くばせし合い、安堵の笑みを浮かべ、立ち上がる。

「どうぞこちらへ」
「コーヒーでいいかしら?」

則武は、ああ、よろしく、と言い、桔梗の隣に腰を下ろす。と同時に桔梗が立ち上がる。が、則武は、逃すものか、とその手を素早く掴む。

「コーヒーを飲むまで待て。その後、お前の部屋で話を聞く。分かったな」

睨みを効かせた則武の鋭い眼が、反論は許さない、と言う。
琶子はその眼を盗み見、恐っ、と目を背け、パソコンに一言打ち込む。

『リアルは妄想より怖い!』と。