榊原邸から眠りの森に戻った琶子は、本棚から一冊の本を取り出した。
ジッとそれを見つめ、ソッと表紙を撫でる。
表題は『今があるから明日も』
「……ナナちゃん」
琶子は愛おしげにその名を呼び、優しく美しかった彼女の面差しを心に浮かべる。
五歳年上だったナナは、時に妹のように、時に友達のように、厳しく優しく大切にしてくれた。
琶子はそんなナナが大好きだった。
ナナと過ごす時間はとても楽しく、有意義だった。
そんな或る日……事故で亡くなる一年前だ。突然、ナナが言った。
『琶子、私の物語を書いて。私の愛する人たちに『愛している』と伝えたいの』
その後、ナナは琶子に幾度となく自分史を語って聞かせた。そして、いかに自分は大勢の人に愛され、助けられたかを語った。
その時、琶子はまだ十三歳だった。