「どちらかと言えば一読もしたことない人に、あれこれ言われたくありません」
「怒ったのか? その顔もなかなかそそるな」

琶子が睨むと、清はニヤリと笑い、それから、当然のように言った。

「恋愛小説だろ。俺には縁遠いジャンルだ」

清の言い訳に、琶子はちょっと想像してみる。
そして、ああ、なるほど、ブサ犬柄のビニールシートぐらい似合わない! とあっさり納得する。

まっ、別にいいですけど……イヤ、ある意味良くないか、と複雑な思いを抱きながら読書の続きをしようと読みかけ、また思い出したように口を開く。

「則武さんと桔梗さんが眠りの森で再会したのは運命? ですよね。じゃあ、その意味は……桃花ちゃん? かな……その先に幸せがあるといいですね」

「他人の運命などに興味はない。奴等は自分でその意味を考えればいい」

素っ気なく清が答える。
それもそうだが、と琶子はチラリと清を見る。

「でもですね、桃花ちゃんにあんな素敵なパパができたら、私も嬉しい……と言おうか……」

何! と清は顔色を変え「素敵! 則武がか!」と間髪入れず突っ込み、ギロリと琶子を睨む。

「とにかくだ、人の幸せを考えるより、お前は自分の幸せをまず考えろ。不幸な奴に幸せを祈ってもらったところで嬉しくもない! 自分を幸せにできてこその他人の幸せだ。分かったな」

この王子、言葉は乱暴で雑だが、時々、神の御言葉めいた言葉をシレッと宣う。
今の言葉もそうだ。でも……と琶子は微笑む。
彼の変てこな優しさに触れるたび、気持ちが少しずつ温かく軽くなる。

「そうですね。まずは……次回作、頑張ります」

図書室に漂う本の香りと穏やかに流れる時間。
琶子は初めて眠りの森以外で安らぎを覚えた。