「なるほど、琶子の妄想通りだとすると、桔梗に誤解があるようだが……」

金成が訝し気に則武を見る。

「お前、覚悟はできるているんだろうな。アイツは施設育ちだ。育ってきた環境が違う」

金成の言葉に、則武が軽蔑の眼差しを向ける。

「桔梗と同じことを言うんですね。格差や身分? クソ食らえだ! 家族には報告済みだった。後はアイツが飛び込んできてくれるだけだったんだ……なのに」

忌々しそうに則武はワインを注ぐ。

「王子! ストップ」

琶子が突然、ノンノンと則武の目の前で人差し指を激しく振る。

「頑なな姫の眠りを目覚めさすのに、酔っぱらっていてはいけません。この機を逃せば、一生姫は手に入りません。勇者よ、素面で、いざ進め!」

声高らかに謳う琶子に、皆の目が注がれる。
どうやら、完全に妄想世界へとトリップしたらしい。

現状況にドンピシャな意見だが、姫? 王子? 勇者? と皆、半分呆れ顔だ。
そんな中、清だけは楽しそうに琶子を見つめる。

「……そうね、そうだわ! 桔梗の部屋に案内するわ」

琶子と同類の登麻里は、再会後の二人が、猛烈なラブシーンで愛を再確認する姿を妄想し、ワクワクしながら立ち上がる。

「登麻里先生、ヨダレ……垂れてるんですけど」

薫の指摘に「あらっ、ごめんなさい」と口元を拭う。

「だなっ、話してこい。話さなきゃ分からないことも多々ある。登麻里君、桃花のこと、頼んだぞ」

「エエ、あの子、食べ足りないようだったから連れてくるわ」

登麻里はウインクを綺麗に決め、則武を従え、キッチンを後にする。