「確かに。桔梗より薫の方が、はるかに女子力はあるわね」

登麻里はノートパソコンのディスプレイ画面を見つめ、丸縁眼鏡越しの柔らかな瞳を細める。

「それに、パティシエだからスウィーツは勿論だけど、和洋中に無国籍、どんな料理もプロ並みに美味しいし」

「あら、流石、登麻里先生、分かっていらっしゃる。オムライス対決でも、桃花のジャッジは私だったもの」

してやったりとばかりに、薫は美し過ぎるドヤ顔を桔梗に向ける。
桔梗はピクリと片眉を上げ、薫を睨む。

「薫さーん、チンって言いましたよ」

不穏な雰囲気の中、場違いな明るい声が割り込む。

「開けてもいいですかぁ?」

アーモンド形の大きく澄んだ瞳が期待に輝く。

薫はわざとらしくツンと桔梗から視線を外し、愛想よく「エエ」と応える。
返事と共に琶子はオーブンを開け、感嘆の声を上げる。

取り出した鉄板の上には、湯気を上げるアイスブロッククッキーが行儀良く並んでいる。

顔を近づけ、鼻をクンクンさせる琶子を八つの目が見つめる。

「今、目の前に子犬が浮かんだんだけど」
「同じく」

四人は頷き合い、再び琶子を見る。
そこには、餌を前に尾を振るチワワがいた。