あのスキャンダルは、こうなるかもしれないと予測しながらも起こした行為? 琶子の頭に、未必の故意という言葉が浮かぶ。

過熱するスキャンダルに対して、清が重い口を開いた。
清と琶子が正式に付き合いを始めた(?)三日後のことだ。

報道各社に送られたプレスリリースの見出しは『榊原清、スキャンダルについて語る』だった。

本人の口から真実が聞ける! とマスコミ各社は、こぞって榊原ホールディングス本社会見会場に詰めかけた。

その記事が、今、琶子の目にしているそれだ。
『榊原清、抱擁美女と結婚! 正体は未だ不明! 正式発表は二月!』

パソコン画面の大見出しに、ボー然と琶子は言葉を無くす。
そして、怒りに任せ、寸でのところでマウスを拳固で叩き壊すところだった。
それを止めたのは、甘いお菓子の香りだ。

「琶子も本当、大変ね。飛んだ悪魔に魅入られたものだわ」
「……どこがローペースで、だ! 全く!」

パソコンを覗き込み、薫がクスクス笑う。

「まっ、ちょっと落ち着こうかっ、ハイ、これ、召し上がれ」

熱々のスフレケーキとアールグレイを琶子の前に置く。

ベルガモットの爽やで清々しい柑橘系の香りが、ささくれ立った琶子の気持ちを落ち着かせ、バニラの甘い香りが気分を少し上向きにする。

「動き出した運命……かぁ」

薫は画面を見ながら、つい先日、登麻里が言った言葉を思い出す。