「あの、聞いていました、私の言うこと」
「ああ、聞いていた。だが、お前はパーティーの時、俺の手を取った」

琶子は、そう言えば、と思い返す。

「あれは貴方が」何かを恐れていたから……と琶子は言いかけ言い淀む。

「何であれ、お前は『一緒に前へ進もう』と言った俺の手を取った。だから、この先の人生を、一緒に歩み進んでもらう」

コレを素で言っているとしたら……何て横暴な人だ! 琶子は怒りに身を震わせる。

「それに、何故かお前の存在が俺を癒す。お前といると俺は普通に呼吸ができる……俺が相手では不服か?」

強気な口調だが、琶子は清の瞳に、一瞬浮かんだ翳りを見逃さなかった。

この間もそうだった。この人は一体何を恐れ苦しんでいるのだろう。
天然故の強引さで、事を運ぶやり方には納得いかない。
だが……何故だろう、この人を嫌いになれない。

そこで、琶子は、ハッと口元を押える。

彼を避けなければと思う程、彼が気になった。意識していたんだ!
異性への特別な感情にはほど遠いが、彼と過ごす時間は楽しい。

ジェンガの時と同じだ。琶子は、ああ! と目を瞑り、胸に沸く淡い気持ちにようやく気付く。

だが……と琶子は改めて清を見つめる。そして、決心したように言う。

「あの……不服はありません。ただ、もう少し、ゆっくり進んで頂けませんか? 貴方の気持ちに追い付かなくて……」

その言葉に、今度は清が目を見開く。

「だから、結婚のお話しの前に……その、恋人……と言おうか……普通にお付き合いをしたい……と言おうか……私、こういう恋愛? みたいなもの初めてなもので……」

真っ赤な顔で、しどろもどろ意見を述べる琶子を、清は愛おしげに見つめ、そして、抱き寄せる。

「分かった。俺は即断即決派だが、お前に付き合い、ローペースで前へ進もう。だが、今日からお前は俺の女だ。だから、キスもするし、それ以上も……時がくればする。覚悟しておけ」

清は琶子を抱き締めながら、また一つ、コイツの初めてを貰った、と満足気に笑みを浮かべ、更にキツク抱き締めた。