榊原さんが私を好き? スキ? スキスキ……キス。

キスされている! 琶子はリアル世界に戻り、再び清から逃れようと後ろに身を引く。すると、意外にも、今度はあっさり離れる。

「ああ、お前が好きだ。結婚しようと思っている」

シレッと宣う清。
ハァ? とポカリ口を開ける琶子。

それから三十秒後、琶子が淡々と問う。

「聞き間違いでしょうか? 結婚という単語が出てきたのですが、誰が誰と結婚するのでしょう?」

「聞き間違いではない。俺がお前と結婚する、と言った」

開いた口が塞がらないとはこのことだ。

琶子は再びポカリと開いた口を一旦閉じ、幼子に言い聞かせるように、ゆっくりハッキリ言った。

「あ・な・た、バカ、ですか?」

この俺に向かって、何て失礼奴だ、と清は眉をしかめるが、琶子がまだ何か言いたそうにしているので、そのまま大人しく聞くことにした。

「恋愛関係にも至らぬ男女の結婚? あり得ません! まして、本人である私の意志は何処へ行ったのですか? 完全無視じゃありませんか! そんな横柄な態度ではどんな女性だって断る筈です」

イヤ! と清は反論したかった。
この世に俺のプロポーズを断る女性はいない、と言いたかった。

そこで清もハタと考える。
今のがプロポーズ? それは駄目だろ。ちょっと可哀想だ……と。

「お前、どんなプロポーズがいいのだ?」
「ハァ?」
「イヤ、本人に聞いた方が早いと思って」

普段、温和な琶子だが、心の奥の方で悪魔っ子が囁いた。
一発殴ってやれ……と。