「とにかくイベントの邪魔をするなら、お前とは縁を切るからな!」

いつになく本気モードの則武が、乱暴に言葉を吐き捨てる。

「邪魔? 協力してやっているのに?」

清は心外だと言わんばかりに、バサッと音を立て書類の束を乱暴にアタッシュケースに仕舞う。

「よく考えてみろ。この写真が琶子だと分かり、琶子の知名度が上がれば、その先どうなるのかを!」

腹立たし気に清が言う。

そりゃあ、琶子は一躍、時の人。なんせ榊原清の意中の女性だ。その琶子が実は幻の作家近江琶子で、彼女がイベントに登場したら……イベントは……と考え、則武は右手のグーで左手のパーをポンと叩く。

「なるほど! おぉ! 大成功だ!」

そして、ガハハと大笑いする。

「だが、誤解するな! イベントの件はあくまでもおまけだ。イベントがなくても俺は琶子と結婚する」

そこで清は則武と裕樹を軽く睨む。

「だから、お前たちの方こそ邪魔をするな」

そんな清を眺めながら、裕樹がフフンと鼻を鳴らす。

「あのさぁ、何か清、昔に戻ったみたいだね」

清が怪訝な顔で裕樹を見る。

「冷徹仮面が剥がれ、感情ダダ漏れ、ダダ分かりだよ。琶子ちゃんのお陰? みたいだね」

嬉しそうな裕樹の表情に、コイツは本当に勘のいい奴だ、と清は唇をへの字にし、しかめっ面になる。

「結婚かぁ。ちょっと焼けるけど、いいんじゃない。好き同士なら」
「俺も今から後方支援に回る! 全面協力だ。琶子先生の……」
「まだ、好き同士ではない」

則武の言葉途中で、清が言葉を挟む。

「エッ! ちょっ、ちょっと待て! お互いに好きだから結婚という言葉が出てきたんだろ?」

「イヤ。俺は好きになりかけていると思う。だが、琶子は今まだ全くその気がない」

「好きになりかけている? まだその気がない? で、どうして、結婚の話が出てくるの?」

則武も裕樹も呆れ顔だ。

「俺が琶子に全てを教えたいからだ」
「ハァ? お前、何言ってんの? 光源氏と紫の上でも目指しているのか?」

清は天井を見つめ、則武が示唆する源氏物語を思い出し、なるほど、と頷き、そうかもしれない、と納得する。

「征服欲。女性に興味無しだった清も、やっぱり男だったんだね。でも無理強いは駄目だからね」

少し嬉しそうに、少し心配そうに、裕樹が注意を促す。