「お祖父さん、代わってもらえますか」

清は市之助の返事も聞かず、琶子の手を取る。
途端にどよめきが起こる。
清が誰かと踊る姿など見たことがなかったからだ。
再び曲が奏でられ、二人が踊り出すと、更に大きなどよめきが起こった。

「琶子、祖父の時のように気軽に踊れ」

緊張気味の琶子に清は声を掛ける。
そうは言っても、と思いながらも清のリードも市之助に負けず劣らず上手かった。

清は驚いた。
羽のように軽い琶子のステップに、清も生まれて初めてダンスが楽しいものだと思った。

「なぁ、代わってくれないよな、あの調子じゃ」

見つめ合い、語り合いながら楽しく踊る二人を見つめつつ、則武が言う。
裕樹も深く溜息を付く。

「僕だって琶子ちゃんと踊りたいのに……」

二人は不貞腐れながら、カウチソファーに座ると、目の前を通り過ぎるボーイを呼び止め、トレイからシャンパングラスを取り、一気に煽った。