市之助とフロアーで踊るマリー・アントワネットは、誰が見ても完璧だった。

「何処のお嬢様かしら?」
「可憐で美しい身のこなしだわ」

いつの間にかフロアーで踊るのは、市之助と琶子の一組だけになっていた。
その周りを取り囲んだ人々は、甘い溜息と称賛の言葉だけを口にしていた。

琶子は周りが全く気にならなかった。

『舞踏会のような正式な場での社交ダンスと、競技用の社交ダンスは違うから間違えないでね。基礎からシッカリ学んでね』

琶子は社交ダンスが好きだった。
金成にパートナーになってもらい風子から徹底的に学んだ。
そして、いつか王子様と踊るんだ! と心に決めていた。

目の前で踊る市之助は王子様ではないが、恐ろしいほどにリードが上手く、琶子は夢中になった。

一曲終わり、次に琶子の前に現れたのは清だった。