「……慣れはしませんが、このシチュエーションは素敵過ぎて夢のようです」

琶子は物語の構想が浮かび嬉々としていた。

「OH! そうか気に入ってくれたようだな。よいよい、それで良い。私はお前が楽しんでくれたらそれで良い」

キーッとハンカチを噛み締めていた貴婦人たちも、マリー・アントワネットが市之助のお気に入りだと分かるや否や、慌ててその場から遠退いた。

「やっぱり一番の策士は市之助氏だね。もう誰も琶子に手出しできないよ」
「だなっ、出したが最後、この世界から抹消される」

裕樹と則武がニヤリと笑う。

「ということで、どうだね、一曲踊っては貰えないかね」

市之助が軽くウインクする。
琶子は頬を赤らめ、恥ずかしそうに「下手ですけど」と市之助の手を取る。
それに驚いたのはクローバー三人衆だ。
まさか、琶子が踊れると思っていなかったようだ。

「社交ダンスだぞ!」

清が慌てて言う。

「はい? それが何か?」

琶子は不思議そうに清を見る。

三人を無視して、市之助は琶子の手を引き、フロアー中央へと足を進める。

「なぁ、琶子って何者?」
「アイツ、武道も達者らしいぞ。金成に勝った、と言っていた」

「ヘッ!」と則武と裕樹が変な声を出し、フロアーの琶子を見る。
「俺、絶対、彼女に手出ししないと誓うよ!」と則武がポツリ呟く。
「莫迦なこと言うな! 手出し無用、俺の女だ!」と清が則武の頭を叩く。

則武は頭を撫でながら、清は琶子のことを本気に思っているのだろうか、と心の中で腕組し考える。