それからしばらく何事もなく、時は淡々と過ぎていった。
だから、琶子は油断していた。

十月後半、グッと気温が下がり、秋の色が見え始めた頃、清から琶子に一本の電話が入る。
二人が直に話をするのは、実に一か月振りだった。

「明日、午後一時、迎えに行く。出かける準備をしておけ」
「はい?」

会話はこれだけだった。
それだけ言うと一方的に切れてしまったのだ。

人の都合も聞かず、相変わらず勝手な人だ、と思いながらも、原稿も上がったし、予定もないし、また、あの図書室で読書もいいな、と琶子は明日がちょっと楽しみになる。

翌日、予定通り迎えが来たが、今回はリムジンだった。

大層なお出迎えだ、と琶子は眉をひそめ、ガソリン代が勿体ないな、とブツブツ呟きながら乗り込むと、何故かそこにクローバーが勢揃いしていた。

「琶子ちゃ~ん、お久しぶり~」

裕樹が満面の笑みで、両手を広げ琶子に抱き着こうとして、清に阻止される。

「琶子先生、あれからお変わりなく健やかにお過ごしでしたか?」

則武は至極丁寧にご機嫌伺をする。

「やってくれ」

そして、清は挨拶もなく、運転手に発車するよう指示を出す。