「碧人、ズルい! 私が言おうと思ってたのにっ」

「やっぱダメだ。待ちきれなくて先に言っちゃった」


ペロッと舌を出して笑う碧人は、私の頭に手を乗せると再び言ったのだ。


「なら、ちゃんと言えば? 聞くから」

「うっ……」


そう改まられると、緊張してくるんですけど。


「ほら、言えよ」

「碧人、イジワル」

「27歳の涼香は、あんなに大胆だったのになぁ」


碧人は何かを思い出す様に、天井を見上げている。

口の端を少し上げ、視線を私に落とした。

その瞬間。

私はピンときたのだ。

27歳の碧人が気持ちを伝えてくれて、27歳の私を抱いた時の事を。


「え? あ、えぇ?」

「あれ? もしかして、思い出した? あの時、俺は27歳の俺の身体を借りてたんだよなぁ」

「……はぁぁ?」


やっぱりそうだったのか!

でも、待って。


「レイは私が覗いた10年後の半分は、幻想って……。だから、あの時の事は……」


言いかけた私の口を、碧人の手が優しく塞ぐ。

そして、口元に人差し指を立て言ったのだ。


「それは、涼香だけがチョークを使っていたなら幻想だったかもしれない。でも、それは俺がチョークを使っていなかったら……の話だろ?」