レイは心配性なんだよ。とオークはクルリと宙で一回転して見せている。
黙ってオークを見つめる私の隣りに、碧人が肩を並べた。
ちょっと指先を動かせば、碧人に触れる事が出来る距離に、嫌でもドキドキしてきてしまって。
顔が火照っているのが分かる。
きっと私の顔は、茹でダコみたいに真っ赤だろう。
そんな私の左手は、そっと碧人の右手に包まれる。
なんだか恥ずかしくて、右手で顔を隠してみても、片手では隠しきれるわけもなく。
「何やってんの?」と、碧人に突っ込まれてしまい、慌てて首を振った。
「あ、ううん。それより、碧人が彼と出会ったのは、この屋上でって言ってたけど……」
「あぁ。……あの日だよ」
「あの日……って?」
碧人は何を言おうとしているの?
あの日って、何時の話なんだろう。
私が不思議そうに碧人を見ていたのか、碧人は私の顔を見ると、ため息を一つついて話し出した。
「あの日、野々下の気持ちを聞いた日。涼香が突然、教室に飛び込んで来ただろ」
碧人に言われ、私は記憶を呼び起こす様に思い出す。
嫌でも忘れるわけがない。
忘れたくても、忘れられない、あの瞬間。あの場面。あの空気。
胸を締め付ける、碧人への想いを全身で実感した時のことを……。



