オークの口から飛び出したのは、レイの名前だった。
「あなた、レイを知ってるの?」
「知ってるも何も、俺ら同種族だからな。まぁ、レイが俺の事を覚えているかは知らねぇけど」
「それって、どういう……」
訊ねた私に、オークはレイの事を昔話の様に教えてくれた。
もともとレイは、昔から教室に住み着いているのではなく、ある時から教室以外の場所に出る事を自らしなくなったのだと。
ある年、真面目な女子生徒が、密かに想いを寄せていた男子生徒を教室に呼び出し、気持ちを伝えた。
日頃から勉強ばかりしていた真面目な彼女にしてみれば、彼に気持ちを伝えたことは最大級の勇気を出したはずで。
それなのに、そんな女子生徒の気持ちを、男子生徒は踏み躙ったのだ。
女子生徒に呼び出された男子生徒は、日々感じていた自分へ対する女子生徒の言動から、薄々「告白されるだろう」と気づいていた。
実際に、呼び出された男子生徒は、自分の友人達に彼女が告白する様子を隠れて見せていた。
周囲に見られている事も知らず、自分の気持ちを告げた彼女に、彼は「冗談も顔だけにしろよ。俺が地味なお前なんかの事、本気で好きになるわけないじゃん。俺がお前に優しくしてたのは、お前を落とす遊びだよ。なに? 本気にしたの?」と笑い飛ばしたのだ。



