繭の気迫に負け、私は逃げる気力をなくす。
「分かった。帰らないから、離して」と繭に告げ、手を解いてもらう。
手首がジンジンとして痛い。
それだけ、繭の気持ちも本気なんだろう事が伝わってくる。
私は、痛む手首を押さえ屋上の隅に座り込む。
何が悲しくて、こんな現場に立ち会わなければいけないのよ。
こんな事なら、レイの助言通り。
早くチョークを使い、繭より先に碧人に気持ちを伝えればよかった。
後悔しても仕方がないのに、私の心の中は「後悔」と「碧人への気持ち」でいっぱい。
「夕凪君、もう気づいてると思うけど。私ね、夕凪君の事……」
私は必死の抵抗として、自分の両耳を両手で塞ぐ。
これは、私にできる最後の抵抗。
屋上には、私を助けてくれるレイは居ないから。
教室から出る事が出来ないレイに、救いを求めても無駄な事だから。
せめてもの抵抗は、こうして耳を塞いで目を閉じ。
碧人の返事を、この場で、この耳で。
直接聞かない事くらいしか出来ない。
両耳を塞ぐと、周りの音が遮られ。
目も閉じているからか、私一人だけ別世界に居るみたいだ。
何処に居るのか分からなくなる。
でも、それがかえって私の心を落ちかせた。
繭と碧人の姿を、二人の声を。
見る事も聞くことも、しなくていいから。



