階段を駆けあがり、踊り場を通過する。
さらに階段を上る。
やっと辿り着いた教室は、机や椅子が規則正しく並んだ、変わらない風景と雰囲気を残し、私を待っていた。
「早く、早くチョークで‘10年前の涼香’って黒板に書かなきゃ」
慌てている私は、持っていたバッグの中に手を突っ込み、ガサガサと中を確認する。
「10年後の涼香」と黒板に記した時、確かにチョークは私が持っていた。
だから、必ず手元にあるはずだ。
なのに。
バッグのポケット全て探してみても、どこにもチョークが見当たらない。
「なんで? どうして無いの?」
嘘でしょ? 嘘だよね? 私、あのチョークを無くしたの?
走って来た廊下に目を向ける。
無理だ。
もうすぐ警備会社の人が学校に到着するはず。
今から、教室に着くまで走ってきた道を戻りながら確認するのは無謀な事。
「レイ! レイ! お願い、出て来て! 居るんでしょ? 隠れてないで姿を見せて。私、チョークなくしちゃった! このままじゃ帰れない」
教室内を隅々まで見渡し、声をかける。
けたたましく鳴っていた警報機が、ピタッと鳴り止む。
もしかして、警備会社の人がもう到着しちゃったの?
私、不法侵入で捕まっちゃうの⁈
「……馬鹿ね。チョークを無くしたなんて、大失態よ。涼香」



