「……碧人っ」
碧人が動く度、首にしがみつく私の耳元で碧人は何度も囁いた。
「全部、俺のせいにしていいから。俺が悪いんだ」
違う。
違うよ、碧人のせいじゃない。
全ては私が、ウジウジしていたからいけないんだ。
いくらでもチャンスはあったのに。
フラれるのが怖くて、繭の気持ちを知っていて、言い出せなかった。
もしも17歳の私が、碧人に思いを伝えていたら……。
きっと、繭の告白現場を目撃することもなかったし。
いまだに信じられない、妖精のレイが見える事もなかった。
現実を消し去るチョークを使うことも。
こうして、10年後を覗いたり。
長い間、私に片思いしてくれていた事を知ることもなく。
碧人に失恋することも無かったかもしれないのに。
碧人に抱かれた後の私は、もっと碧人が好きになっているはずだ。
その時、私はどうするんだろう。
どうしたいと思うんだろう。
碧人に「繭にプロポーズしないで」とか、口にしてしまうのかな。
それとも、強がって。
「これもいい思い出ね」なんて、碧人を前に大人ぶってみるのだろうか。
どちらにせよ。
27歳の私には、酷な現実が明日から始まるのは決定的だ。
私を抱いた後の碧人は、私への想いを断ち切って。
晴れて、繭の元へ向かうのだろう。
それでいいの?
本当に、私が望むことは、こんな事なの?
元の世界の私は、何一つ変わらない。
碧人に抱かれた思い出を忘れられずに。
27歳になった私は、碧人と繭の結婚を知らされて。
おめでとうと、祝わないといけないの?
___この未来を変えることは、出来ないの?



