エレベーターは三階で止まる。
扉が開くと、碧人は私を連れエレベーターを降り、ぼんやりと薄暗い廊下を歩く。
その足取りはゆっくりと。
どこか決意を秘めた横顔で、落ち着き放っている様に感じる。
「碧人、あの……」
言いかけた私の声を無視し、碧人は部屋の鍵を開け、カードキーをセットすると部屋の照明が全て点灯した。
碧人に引き入れられ、足を踏み入れた私の目に飛び込んできたのはダブルベッド。
それを目にした瞬間。
私は、碧人が何を考えているのか直感した。
と同時に、足が竦む。
「碧……。私そんなつもりじゃ……」
言いかけた私の唇を素早く塞いだ碧人。
重ねられた唇は、17歳の頃の碧人と同じだった。
放課後、廊下で頬に触れた碧人の唇の感触を思い出す。
イケナイ事をしている。
そんな事、分かってる。
誰に言われなくても、私が一番よく分かってるよ。
この身体は、27歳の私のもので。
中身が17歳の私が、好き勝手にしてはいけない身体だという事も。
けど。
なんとなく分かる。
きっと、27歳の私は碧人の事が好きだ。
17歳の頃から、変わることのない想いを抱えたまま、大人になってる。
心に碧人が居ながら、時には碧人を忘れようと。
さっき街中で会った男の人と付き合ったりしてたんだ、と。



