「涼香?」
「ごめ……。ごめんね、こんなトコで……」
下を向き、謝る私の手を引き、碧人は黙ったまま歩き出した。
人の流れに逆らう様に、まっすぐに進む碧人は、ジュエリーショップに向かっているのだろう。
繭のために用意した婚約指輪なんて見たくないのに。
また私は、繭と碧人。
二人が一緒の姿を見なければいけないの?
握られている手が痛い。
痛いのに、振り払えないよ。
今離れたら、こんなメンドクサイ私を置いて、碧人は迷わず繭の元に向かってしまうだろうから。
「どうして止めないんだ。いつだって、お前は……」
前を向き、言葉を放つ碧人の声は雑踏にかき消され。
全てハッキリと聞こえない。
けれど、手を引かれ足を踏み入れた場所はジュエリーショップではなかった。
こんな街中にひっそりと佇んでいるビジネスホテル。
ロビーには、受付が一人。
「部屋、空いてますか?」
言葉少なく尋ねた碧人に、受付のスタッフは静かに鍵をカウンターに置いた。
鍵を手にした碧人は、私の手を離す事無くエレベーターに乗り込む。
狭苦しいエレベーターは、碧人と私の身体を自然と近づけた。
「いいかげん泣き止めよ」



