「……やっぱり。止めろとは、言わないんだな」
「え?」
見上げると、碧人は私をまっすぐに見つめていた。
そんな碧人の視線が痛い。
本当なら、飛び上がるほど嬉しいはずなのに。
ドキドキするほど。心臓が飛び出ちゃうかと思うくらいなのに。
胸が苦しくなるばかりで。
鼻の奥がツンとしてくる。
油断したら、今すぐにでも泣いちゃいそうだよ。
こんな事なら、10年後なんて覗かなければよかった。
後悔しか残らない。
「俺さ、ガキん時から涼香の事が好きだったんだ」
「碧人、私……」
「いまさら言っても遅いよな。もう後戻り出来ないトコまで来ちゃってるし。でも、言っとかないと後悔する様な気がしてさ。それに、本当に繭と結婚が決まった後で、こんな事口にしたら大問題だろ」
ダメだ。
もうダメ。我慢できない。
碧人の気持ちを教えられて。
17歳の私が大人びた、気の利いた事なんて言えないし。
大人の対応なんて、出来るわけがない。
「碧……人」
街の中で、周囲の目も気にせずに。
私は碧人の前で大粒の涙を落としてしまった。
ポタポタと落ちる涙は、放課後のプリントに落ちた時の涙みたいに。
歩道のコンクリートにポタリと落ちると、地面にしみ込んだ涙は、蒸発するように消えてゆく。



