「あの、夕凪さん?」

「……チョークなら持ってるだろ」

「え?」

「その巾着の中に」


静かに語られ、私は手にしていた巾着袋をそっと開けてみる。

小さな巾着袋から、コロンと掌に転がったのは、見た事もない七色に輝くチョークだった。

とても小さいながらも、光り輝くその眩さは、私を惹きつける。


「なにこれ……。キレイ」


そう口にした瞬間、私の心に風が吹き。

またしても、不思議な空気に全身が包み込まれるような感覚がしたのだ。


「涼香、思い出せよ。この使いかけのチョークは、お前のものだ」


私は、何か大切な事を忘れてるの?

どうして彼が私の名前を知っているのか。

どうして私は、初めて会った時から彼の事が気になって仕方が無かったのか。


「私の……チョーク?」

「レイが、涼香に与えたものだ。お前は、これを使って運命を変えようとしたんだ」


彼が口にした「レイ」という名を聞き、私の心の奥底にしまわれていた、パンドラの箱を開けられた様に、心の中のモヤモヤしたものが晴れてゆくのを感じた。


忘れていたんじゃない。

大切に、しまっていたんだ。

決して、その名を忘れてしまわない様に。