電車で助けてもらった時だって、偶然ドア付近に立っていたのが彼だっただけで。

今日、また会ったのだって。

単なる偶然で。


そう思ったのに、彼は私が思っていた事と違う事を口にしたのだ。


「いつも迷惑かけられてるのは俺の方じゃん」


その言葉にドキッとする。

どうしてだろう。

彼の一言に、心が乱されている。


立ち上がった彼は浴衣の乱れを直し、改めて私の目の前に立っている。


風呂上がりの濡れた髪だからか。スーツ姿だった初対面の時よりも幼く見えて。

不思議と彼に感じる懐かしさは、学生時代の男子みたいに見えるから?


また不思議な感覚が、フワリと私の身体全体を包み込んだ気がした。


この空気感は何なの?

もっと。

彼の近くに居たい気分になってしまっている自分に驚いている。

これは既に初対面の時から、彼に一目惚れしてしまっていた証拠とも言えるのだろうか。


「相変わらずだな、黒崎は」


彼の口から飛び出したのは、私の名前だった。

ドキン。と胸を打つ鼓動は、予想以上に大きくなり。

私は驚きを隠せずに、彼の顔を見上げた。


「ど……して、私の名前を」


彼に名前を呼ばれた私は、確かに胸の奥がズキンと痛んだ。

この胸の痛みは、一体なんだと言うのか。


自分の気持ちに説明がつかない私は、彼の視線から逃げる様に下を向く。


「……あれ?」