なんて。
口に出したら、きっと笑われてしまうだろう。
夢に出てくる人が好きな人だなんて。
本気で恋をしている人だなんて。
普通じゃありえないことだよね。
「……香ちゃん、涼香ちゃん、降りるよ」
何時しか、うたた寝をしていた私は、繭に身体を揺すり起こされた。
頭上に置いた荷物を取ろうと、上を向く。
あれ? 置いた場所に、私のボストンバッグが無い。
まさか泥棒? と焦った私に、繭が指をさしてボストンバッグのありかを教えた。
私のボストンバッグは向かい合っている座席に、お行儀よく乗っていた。
「私が涼香ちゃんのバッグを取ろうとしてたところを、通りすがりの人がバッグを降ろしてくれたのよ」
「そう。ありがと」
「聞いてよ。バッグを降ろしてくれた人ね、すっごく優しくてカッコよかったんだよ」
「へぇ、そうなんだぁ」
寝てた私には関係のない話だわ。なんて人事のようにバッグを手にした。
繭と二人、駅を降り。
今宵の宿へ向かうバスに乗り込む。
山道を走る巡回バスに揺られながら、私は窓の外を見つめる。
また私は夢を見ていた。
あの人に、頭を撫でられ心地よく思っていたのに。
夢の途中で起こされてしまったからなの?
まだ私の胸は苦しいままだ。



