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「涼香ちゃん、聞いてるの?」

「え?」


テーブルをはさんだ私の肩に手を置き、顔を覗き込んでいるのは繭だった。

手にはキャラクターもののカラーペンを握りしめていて。

もう片方の手には、広げたスケジュール帳を持っている。


「ほら、次の日曜は一緒に出掛ける予定なんだから丸印付けてよ」

「あ、あぁ。はいはい」


繭に支持された日付に、カラーペンで丸印をグルグルと記す。
広げたスケジュール帳の日付の下には既に‘繭と旅行’と書かれている。


そうだった。

私は、繭と久しぶりに箱根へ行く計画を立てていたんだっけ。


「えっと、何時に出発?」

「もぉ、忘れないでよ。9時発の電車でしょ」


頬を膨らませる繭は、私を睨みつける。

その顔は、高校生の頃と変わらない。

相変わらず可愛い顔で。つい、いたずらしたくなっちゃうのだ。


私は、口をとがらせている繭の頬を指でツンと突く。

頬を膨らませていた繭の、口の中の空気がプシュッと抜けた。


「あははっ」

「涼香ちゃん、絶対に他の人の前でやらないでよっ」

「ごめん、ごめん。しないってば」


高校時代からの繭と私の仲は、10年経っても相変わらずなのだ。