「れおは将来の夢とかある?」



少し型崩れしたイチゴのショートケーキを頬張りながら、向かい側に座るれおの顔を見つめる。


もらった香水は木箱に戻して同じように紙袋にしまっておいた。



「なんだよ、急に」


「いや、あるのかなぁって気になってさ。しっかりしてるし、あるよね?」


「夢……ね」



トーンダウンしたれおの声に眉をひそめる。


遠くを見つめるその横顔には笑顔はなく、憂いを帯びている。


星ヶ崎高校に行きたいと言い出したれおの目は希望に満ちていたというのに……。


もしかして、聞いてはいけないことを聞いちゃったかな。


余計なことを言っちゃった?


……耳のことを気にしてるの?


やりたいことがあるように見えるけど、今のれおはそれを諦めてしまっているように思える。



「俺には夢なんてない。ただ、普通に生きていけたらいいと思ってる」


「……普通に」


「そう、普通に」



普通。


れおの言う普通がどんなものなのかは、私にもわかる。


普通の生活……。


それが、れおにとってどんなに難しいことなのかも理解しているつもりだ。


れおの苦しみや不安を完全に理解することは難しいけど、私に出来ることがあれば力になりたい。


その表情の裏にある胸のうちを聞かせてよ、れお。


たまには弱さを見せたっていいんだよ?


れおは1人じゃない。


私だっているし、大雅だっている。


サクさんやカナさん。


それに、みんなもいるんだよ?