あれから6年。
私たちはあのあとすぐに結婚した。
あの日のことを思い出すと、今でも胸が締め付けられる。
楽しいばかりの恋ではなかったけど、れおに出逢えてよかった。
「しず、那知(なち)の靴下は?」
「え?その辺にない?」
主婦には大忙しの朝、家を出る直前にれおがそんなことを言い出した。
っていうか、さっきはいてたのにもう脱いだの?
相変わらず、那知は靴下が嫌いなんだから。
「キャハハー、ママー、幼稚園行ってきまーす!」
「ちょっと、那知!靴下はきなさい」
「やーだよ!パパ、ほらおそーい!」
5歳の那知は天真爛漫で、毎日毎日私たちの手を煩わせる。
那知には物心がついた時から手話を教えているので、れおとの会話もバッチリ。
れおは那知を溺愛していて、見事な親バカっぷりを発揮してくれちゃってます。
「しず、行ってらっしゃいのキスは?」
「えっ!?」
「えって……嫌なんだ?」
「嫌じゃないけど、ほら、那知もいるし、ね?」
「してくんなきゃ、仕事行かないけど」
「いや、子どもじゃないんだから」
「しーず」
こんな風に、れおは前にも増してワガママになった。
でも、それも悪くないと思える。
だって、今がものすごく幸せだから。
「もう、仕方ないな。行ってらっしゃい」
目を閉じて、れおの唇にそっとキスをした。
「パパとママがチューしてるー!パパ、那知もチューして!」
「あ、那知はダメ。れおはママのだから」
「ふふ、ママってパパが好きなの?」
「当たり前じゃん。大好きだよ」
「那知も!那知もパパ好き」
「ママの方が好きなんだから」
「ぷっ。なに那知と張り合ってんだよ」
呆れたようにれおが笑った。
つられて思わず私も笑う。
「那知はねー、ママもパパもだーい好き!」
「ママも那知のことが大好きだよー!」
家族3人で顔を見合わせて笑い合った。
ああ、幸せだな。
3人でいると毎日がとても楽しい。
「あ、れお」
「ん?」
「家族がもう一人増えたよ」
「え?」
「3ヶ月だって」
「マジ?やった」
これからますます大変になるけど、きっと今よりもっと幸せになるね。
れおとの未来。
私は今、とても幸せです。
【fin】