「あっ……!」



何かにつまずいて思いっきりバランスを崩した私は、前のめりに勢いよく転んだ。


膝に、腕に、体中のあちこちに衝撃が走る。


痛いと思った時には、アスファルトの上に叩きつけられていた。



「いたたた……っ、うわ、血が……っ!」



膝が思いっきり切れちゃってる。


でも、今はそれどころじゃない。


痛さを堪えて立ち上がり、前を向いた時だった。


れおがこっちに向かって走って来る姿が見えた。



「しず、何やってんだよ。バカだな。大丈夫か?」


「れ、れお……!もしかして、見てた?」


「うん、バッチリ。豪快に転んだ姿、目に焼き付けた」


「え、それ最悪……!」



もっと違う姿を焼き付けてよ!


転んだ姿なんて恥ずかしすぎる。



「ウソだよ」



そう言ってクスクス笑うれお。


その笑顔に胸が締め付けられる。


「……れお」


最後なのに、もうしばらくは逢えないのに、言葉が何も出て来ない。



「膝、血が出てるな。大丈夫か?あとで母さんに診てもらえよ」


「うん……」


ポンと頭に置かれた手のひら。


れおの温もりが心にしみる。


泣かないって決めたのに、泣きそうだ。



「もう、行かないと……」



嫌だ。


行かないで、れお。



「待って……っ!」



れおの腕を掴んで引き止める。


ほら、何か言え、私!


何のためにここまで来たの?


何か……何か。


待ってる?


ずっと、好きでいる?


ううん、違う。


そんなことが言いたいんじゃない。


笑え、最後くらい。


笑って見送るために来たんでしょ?


顔の筋肉に力を入れて、ムリに口角を引き上げた。



「れお……行って、らっしゃい……!」



れおの頬を両手で挟み、背伸びをしてそっとキスをした。


れおの唇の感触。


離れても、ずっと忘れないよ。



「ずっと応援してる。カリフォルニアに行っても……頑張ってね」



れおの目をまっすぐに見つめて、手話交じりに伝えた。


唇が震えたけど、満面の笑みを添えて伝えることが出来た。


れおはフッと微笑み、顔を軽く伏せて「ありがとう……」と小さくつぶやいた。


その声が震えていることに気付いていたけど、気付かないフリをした。


「俺……絶対に夢を叶えて帰って来るから。でも、待たなくていいからな」


ガシガシッと私の頭を乱暴に撫でたれおの手は、少し震えていた。


何も言うことが出来ずにいると、れおは私の耳元に唇を寄せた。


「じゃあ……行って来る」


小さくそうつぶやき、走り去って行くその背中。


「れお……っ」


行かないで……っ。


寂しいよ。


苦しいよ。


でも……頑張ってね。


応援してる。


寂しくても、苦しくても、れおのことをずっと応援してるから。