何より、もうしずの声が聞けない。


告白の返事は直接聞きたいって自分から言っておきながら、その能力が完全に失われてしまった。


しずの声だけではなく、俺にはもう、この世界のあらゆる音が聞こえない……。


風が通り抜ける音、自分の足音、物を噛む音、話し声、笑い声、泣き声……。


無音の世界に自分の存在価値が見出せなくなり、生きてる意味がわからなくなったこともあった。


こんな俺を……誰が好きになってくれるっていうんだよ。


しずも……いつかは離れていく。


そう考えたら、苦しくて虚しくて。


それに、両耳が聞こえなくなったなんて言うと、しずのことだから泣くに決まってる。


あいつの笑顔を奪うようなマネはしたくない。



いつかは離れて行くのなら、いっそのことこっちから離れよう。


その方がしずも幸せになれる。


笑っていられる。


俺じゃない他の誰かと、一緒にいる方がいいに決まってる。


だから……遠ざけて拒絶した。


弱い俺は、しずに真実を打ち明けて向き合うことから逃げたんだ。


それだけじゃない。


星ヶ崎高校への進学を諦めたのも、ただ逃げただけ。


通おうと思えば通えたけど、合格を蹴って家から電車で1時間のところにある特別支援学校を受験した。


生徒数はそんなに多くないけど、ここには色んな事情を抱えた奴がいる。


俺と同じ仲間がいる。


それだけで救われた気がした。


中には、俺と同じように小学生の頃に病気で聴力を失った中途失聴者もたくさんいた。


生まれつき耳が聞こえない奴もいたけど、手話を使えば会話は可能。


ただ使用する手話の種類が違うからなかなかスムーズにはいかなかったけど、それでも仲間がいることに安心感があった。