「じゃあ、行くね」
長居するとさみしくなっちゃいそうだから、私は足早にここを去ることにした。
「花代元気でね。ここまで育ててくれたお父さんのこと、これからも大切にしてね」
「うん……それじゃあ、さよなら!」
私は力強くそう言い、クルリと背を向けて歩き出した。
家のすぐ近くを流れる川の音も、荒い砂利道を踏みしめる感覚も、もう二度と味わうことはない。
だからこそ私はここにいたこと、ここに来たことを忘れたくなくて、感じる全てを記憶に焼き付けた。
そうして振り返ることなく歩き続け、いつものT字路に辿り着く。
ここを右に曲がれば、花奈の家は木に隠れて見えなくなる。
最後に振り返ろうか振り返らずに行くか迷った。
迷いに迷ったけれど結局振り返らず、私はT字路を右に曲がる。
そのまま1歩1歩歩いていたら……だんだんとこちらへ近付いてくる大きな足音が1つ。

