ある町で巨大な樹が道路にはみ
出して生えていた。
 そのせいで道路は曲がりくね
り、朝夕によく渋滞する場所だっ
た。
 その樹は樹齢800年ぐらいの
ケヤキで、春先には大量の花粉を
まき散らすため町役場には、花粉
症になった人からの苦情が絶えな
かった。
 何度も移植や伐採する計画が持
ち上がったが、そのたびに立ち消
えになる。それはこの樹が神木だ
という言い伝えがあり、切るとタ
タリがあると信じられていたから
だ。
 移植するにしても巨大なうえ、
タタリがあるかもしれないと嫌が
られ、名乗り出る地主もいなかっ
た。
 とりあえず花粉症対策として、
春まじかになると枝を切るのだ
が、その作業をする人達の中に事
故でケガをする人や病気になる
人、行方不明になる人が必ず一人
は出てしまう。それがタタリの噂
を現実のものとしていた。
 
 ある日の深夜。
 1台の自動車がケヤキのある曲
がりくねった道路を通り過ぎた辺
りで、急に横転し炎上する事故が
起きた。
 近くの住民からの通報で消防団
がやって来て消火作業にあたり、
その後、警察が現場検証をした
が、ケヤキの手前に急ブレーキの
跡があり、スピードが落ちないま
まケヤキをよけようとして横転し
た事故と見られた。
 自動車は真っ黒に焼け、運転し
ていた人は焼死したが、ケヤキに
は傷一つ無かった。
 死体は救急車に乗せられ、黒焦
げの自動車はしばらくして来た小
型レッカー車で撤去された。とこ
ろがその後、警察から連絡を受け
たレッカー車がやって来た。
 黒焦げの自動車は謎のレッカー
車と共に消えた。