For You 〜 天使だった君に 最高のお返しを

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帰宅した私は決心が鈍ってしまわないうちに、引き出しの中に仕舞っていた彼のスマホを手に取った。

私とお揃いの紺色のスマホケースは、彼のグッズである。


インディーズデビュー以来ずっとグッズを作ってくれている人の作品のひとつで、ギターを弾く彼が可愛らしいイラストで描かれている。

グッズはどれも可愛いものばかりで、私もよく気に入って使わせてもらっていた。


ぱっと見では私のと見分けのつかないそれのロックを解除する。

当然開いた画面は私と違うアプリが並んでいるおり、違和感があった。


ベッドに寝転がって、彼からもらったお気に入りのくまのぬいぐるみを抱きしめた。

クッションのような柔らかさが、彼の言葉と私の心の間の緩衝材になってくれる気がした。


大きく1回深呼吸をしてから、メモアプリをタップした。


まず驚いたのはその量だ。

私なんてメモ機能は買い物リストに使うくらいで、買い物が終わったらすぐに消してしまうから、メモ機能を頻繁に使う人はこんなに膨大な量になるなんて想像もしなかった。



そして視線が吸い寄せられるように文字を捉えた。

1番上のメモのタイトルは「For You」。


最終更新日時は2018/12/18。

彼の亡くなる1日前だ。


気付いた瞬間、一気に目頭が熱くなるのが分かった。

やっぱり辛すぎる。


亡くなる1日前なんて、とてもギターに触れられる状況には見えなかった。

そんな中でも彼は創作を辞めなかったのだ。